貴妃未満ですが、一途な皇帝陛下に愛されちゃってます
「蔡貴妃様には、慌ただしくて申し訳ありませんでした。こちらの宮では、ご不自由はありませんか?」

 睡蓮が申し訳なさそうに聞いた。

 紅華が宮城に来てからずっと、睡蓮は彼女の世話をしてくれていた。こまめに動くことをいとわず、細かいところまで気の付くよい女官だった。女官長というからにはよい家の出なのだろう。仕草の一つ一つにも気品があふれる美しい女性だ。

「いいえ、いたれりつくせりで申し訳ないくらい。あ、でも、ひとついいかしら」

「なんでございましょう」

「私はまだ正式に入宮の儀を受けていないんだから、貴妃と呼ばれるのは少し照れくさいの。せめて睡蓮だけは、できれば紅華と呼んでくれないかしら」

「まあ」

 睡蓮は、少しだけ目を丸くすると微笑んだ。


「かしこまりました。では、紅華様と呼ばせていただきますね」

 その時、女官が廊下から声をかけた。

「蔡貴妃様、失礼いたします」

「どうしたの」
 
 睡蓮が聞くと、落ち着いた声が返った。

「陛下がお越しになります」

「陛下が? ええと、どうしたらいいのかしら」

 紅華は、あわてて立ち上がる。

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