貴妃未満ですが、一途な皇帝陛下に愛されちゃってます
「この陽可国において、皇帝陛下以上に守らなければならない大事な命なんてあるのか?」

「でも……」

 紅華は、なぜだか泣きそうになってうつむいた。どう言ったら、天明に伝わるだろう。

 天明の言うことに間違いはない。皇帝は、決して害されてはいけない存在だ。だが、だからと言って天明の命をおろそかにしていいとは、決して思えないのだ。

「そんな風に言わないで……確かに皇帝陛下は誰よりも尊ばれる方ですが、天明様だって、代わりになる人は誰もいないんです。どんなに気に食わなくても、死んでしまっては喜べません。もっと、ご自分を大事になさってください」

 短かくはない沈黙のあと、ああ、と小さく天明の声が聞こえた。


「やっぱり俺の事は、気に食わないのか」

 しょげてしまった紅華に調子を狂わされたのか、なんとなく気まずそうな顔の天明がわざとからかうような口調で言う。
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