貴妃未満ですが、一途な皇帝陛下に愛されちゃってます
 少しだけ視線を外して紅華が言った。手持ちの本を読んでしまったのは事実だが、嘘をつくのは後ろめたかった。

 睡蓮なら天明の様子くらい調べられるだろう。だが、昨日部屋に帰ってからも睡蓮は、痛いところはないか気落ちしてないかと、紅華の方が心配になるくらい気遣ってくれた。なるべく、睡蓮の前で昨日の話題には触れたくなかったし、そもそも紅華が、容体が気になるから天明会いたいなどと言うのは恥ずかしかった。

「かしこまりました。では、使えるように手配いたしましょう」

 本の話題が出ていたせいか、睡蓮は特に詮索もせずに答えた。

「ありがとう。頼むわね」

 紅華の朝食を片付けると、睡蓮は手続きのために部屋を出て行った。


 一人になると、紅華は少しだけ化粧をした。外朝に出るのなら、それなりに身支度を整えなければならない。一通り身支度が終わったところで、ほとほとと誰かが戸を叩くのが聞こえた。睡蓮が戻ったにしては早すぎる。

 なんとなく予想がついた紅華は、用心深くゆっくりと扉をあけた。

「……やっぱり」

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