借物の恋【中学生日記③】

「その日だけでいいのです、神様。ジャンジャン雨を降らせ、体育祭を中止にしてください」

 先週からオレは、機会あるごとにそう祈りを捧げていた。
 だが、その当日は……

 窓の向う側。しきりに鳴く小鳥の声で目を覚ます。
 カーテンの明るさが、これ以上ないくらいの晴天であることを教えてくれていた。

 ポン、ポン、ポポーン…… 
 花火の音だ。
 目覚し時計を見る。
 am6:30

 体育祭実施のお知らせだった。

「はぁ── 」

 大きくタメ息をつき、オレは布団を抜け出した。


 重い足どりで校舎に近づく。
 朝一番から、拡声器が軽快な音楽を流していた。
 放送部の奴らめ、その音楽、耳に突き刺さるんだよ。

 悪態をつきながらも、リズムに合わせて歩いてしまう。そんなオレが、実に悲しかった。

 この喧騒から早く逃れたい…… ただそれだけを、オレは願っていた。
 この忌まわしい、体育祭という学校行事よ、早く過ぎ去ってくれ……
< 1 / 5 >

この作品をシェア

pagetop