借物の恋【中学生日記③】
 奈緒が右手を差し出した。
 彼女の柔らかそうな手が、目の前にある。憧れの女子の手だ。

 その右手にオレの左手を重ねた。二人はごく自然に手を握っている。

「オレを選んでくれて、ありがとう」
 
 心の中で、意味不明な感謝の言葉を伝えていた。

奈緒に導かれるように、オレは走った。どっと、笑い声があがる。
 その姿はまるで、仲の良い姉妹のようだったに違いない。
 オレの姿が、いま、笑いの渦を巻き起こしている。それは会場全体の空気でわかった。

そんなことより、大切なことがある。オレは今、確かに彼女と手を繋いでいる。その事実。

 もう、何も要らない。笑われたって構わない。
 オレは幸せだった。

オレたちは今、全校生徒とその家族たちから笑顔で祝福されている。
 初めての協同作業が、本日の出席者から写真とビデオに撮られていた。

 突然、降って湧いた幸運。生きていて良かったと思える瞬間だった。
そして、あっという間にセレモニーは終わり、オレたちはゴールインしていた。
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