仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
(泣きたかったわけじゃなくて……泣きそうだったわけでもなくて……)

 自分でもそうだとわかっているのに、きゅっと唇を引き結ぶ。

 電話を終えたあとになって目の前がゆっくり滲んでいった。

 和孝さんは私の震える声を聞いて、原因をなんだと思ったのだろう。問題が起きたことの不安だろうか。

 でも、こうして指摘された今、私は自分の気持ちを理解した。

(力になれてうれしいって言ってくれたことがうれしかったの)

 本当に泣いてしまわないよう、ゆっくり深呼吸をする。

 それを何度か繰り返し、今度は世田くんの番号に電話をかけた。

『先輩、お疲れ様です! どうでしたか?』

「一時間後にまた連絡してくれるって。だから――」

 身内がかかわることなのに、自分でこの先を言うのは気恥ずかしいようにも思えた。
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