仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
「だって私たち……あの……こういうこと、なかった……から……」

 喉がからからになる。途切れ途切れで話すのが精一杯だった。

「今まで通りの方がいい?」

(そんなまさか……!)

 反射的に返しかけるも、再びきっちり飲み込む。

「……和孝さんはどうしたいの?」

「紗枝さんがしたいようにしたい」

(こういうときは私を気遣わなくていいから! 好きなようにしていいから!)

 女の子がはしたない、と絵美さんに怒られそうだ。

 真里にも間違いなく呆れられる。でも今の私の知ったことではない。

「……どうして、急に」

 和孝さんの方を見ないようにしながら、目の前のシャツに向かって話しかける。

 いい匂いがした。このまま顔を埋めたら、そのまま意識を失いそうなほど。

 しばらく和孝さんは黙っていた。
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