仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
 私の心臓が止まるのが先か、もう一歩踏み出すことになるのが先か。今、非常にギリギリのところにいる。

 和孝さんは髪を撫でるばかりで、なかなかその先に進もうとしなかった。

(私がうつむいてるからいけない? でも、顔を見たら失神しそう)

 かけらほどの勇気をまたかき集め、息を止めながら顔を上げる。

 目が、合った。

 ふっと意識が飛んで、すぐ自分を取り戻す。

(あ――ぶなかった、本当に気絶するところだった)

 緊張が極限状態にあるせいで、なにをしても危ない。

 和孝さんは私を見つめていた。優しくて温かな、胸がきゅんとするような眼差しだった。

「……焦りすぎたかな?」

「なにが……?」

「いや、そんな顔をしてると思わなくて」

(どんな顔……?)
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