仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
 うっかり顔を上げて見たその表情は、間違いなく照れ顔だった。

「昨日までの和孝さんだったら絶対言ってないよね」

「そうだな」

「私も……襲ってほしかったって言わないと思う」

 和孝さんはしばらく沈黙した。気まずそうに身じろぎして、苦笑する。

「この状況で言う?」

「うん」

 抱き締められてからまだ三十分経っていない。

 だけどもうそんな時間は必要なかった。

 腕を解いた和孝さんが私を抱き上げる。

「あ、危ないよ。重いでしょ?」

「最初に会ったときだって紗枝さんを支えたのに?」

「……!」

 そういえばそうだった。

 あのときは階段で転びそうになった私を支えてくれて――そして今がある。

「もっと時間をかけるつもりだったけど、もう無理だ」

 和孝さんが私を抱いたまま歩き出す。
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