仮面夫婦は今夜も溺愛を刻み合う~御曹司は新妻への欲情を抑えない~
 押し倒していたのは私だったのに位置が逆転する。覆いかぶさってきた和孝さんは、逃げ場を奪うように私の顔の真横へと両手を置いた。

「いい匂いだと思って」

「それは……」

 香水か、それとも私なのか。

 きっと答えはひとつしかないけれど、一応聞いておく。

「香水を付けた紗枝さんがいい匂いなんだよ」

 私の聞きたいことがわかったのか、想像を超えた百点満点の回答が返ってくる。さすが和孝さんだと感心した。

「レモンっぽくていい匂いだよね」

「うん。おいしそうな匂いだ」

「えっ」

 問い返そうとした瞬間、またちゅっと肌を吸われた。

 身じろぎした弾みにシーツがごそりと衣擦れの音を立てて、先ほどとは違う緊張が込み上げる。

「た、食べ物じゃないよ」

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