好きじゃない
掃除の時間。

私は廊下当番で奈穂と若菜は教室当番だったけど、ドアのところで当然のように立ち話する。

「どうだった?」

昼休みの図書室係事情に興味津々って感じ。

「いやー、あれは女に慣れてるわ」

私は曖昧に答える。

「何話したの」
「いや、特に。私サザエさん読んでたし。」
「は?何やってんの」
「誰も来ないもん、どうせ」

二人は呆れる。

「羨ましいけどね、密室に二人」

若菜が言う。

「誰も来ないだけで密室じゃないし」

私が言ってる途中で二人の顔が変わった。

左肩にポンと重い手が乗る。
ゆっくりその手の先を見上げる。

「放課後暇?なんか予定ある?」

噂をすれば、だ。

「いや、ないけど、今渡すよ?」
「ないなら部活終わるまで待っててよ」
「え?」

整った顔立ちで平気でこういうこと言うんだ。
何人の女落としてきたんだろう、こいつは。

「なんでよ。」
「一緒帰れたらなーと思って。あ、一緒に帰んの?」

麻木蓮は奈穂と若菜の方に視線を向ける。

二人は咄嗟に「どうぞどうぞ」と私を差し出す。

「じゃあ待っててよ」

左肩の手が離れる。

私は唖然としながら、ただ「わかった」とだけ呟いた。

麻木蓮は「うぃー」と謎の返しをして、この場を去って行く。

奈穂と若菜に視線を戻すと、二人も唖然といった様子。

「ね?」

私の確認に、二人はコクンと頷いて「あれは慣れてるわ」と答えた。
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