好きじゃない
文化祭初日はあっけなく終わった。

先生たちの出し物見て、間に露店眺めたり、カフェやってる教室で暇つぶしして、最後にミスミスターコンテスト見て盛り上がって。

5人くらいからナンパされて、連絡先渡されたけど、そのままゴミ箱行き。

懐かしい同中だった男もいた。

中学校時代仲良くなかったのに、急に連絡先渡されて笑う。

全然、手応えもなく1日が過ぎていく。

手にしてるパンフレットには眩しい蓮の絵。

私は空高く羽ばたく日が来るんだろうか。

こんな風に、一人一人の空を高く飛ぶんだろうか。

蓮は飛べるかもしれないけど、今の私には鮮やかな未来が見えない。

「さっきの人たちちょっと良かったよね」

解散後、廊下での立ち話中、若菜が言う。
他校のちょっと爽やかな男子だった。

「あー、結構良かったよね」

相槌を打つ。
けど、関係を発展させる気にはなれない。

奈穂が友達のやってるカフェから残ったタピオカ黒糖ミルクティーを運んできた。

龍樹くんはミスミスターコンテストに出場して、その化粧落とし中らしい。

「準優勝だったね」と声かけたら「そもそも出る時点でおかしいよね」と奈穂が謙遜した。

でもクラスを代表して出るのにふさわしいタイプだ。

「明日だよね」

奈穂が少し躊躇いがちに言う。

「ん?」
「蓮くんの、パフォーマンス。」

とても遠慮がちな声だ。
奈穂の言葉に、笑顔が固まったのが自分でも痛いほど分かった。

「私、龍樹と見る予定だし」

誘おうとしてるんだ。

「見るわけないよ」

私はそのままの笑顔で先に返した。

「見るわけない。」

余計好きになってどうするんだろう。

元カノの方を向いてる人を、余計好きになるなんて、つらい。

奈穂は「そっか」と言うと、それ以上何も言ってこなかった。

甘い甘いタピオカ黒糖ミルクティーが、身体中に染み渡る。

「なにこれ、うっま!」

私は大袈裟なリアクションをして、話題を逸らした。

本当はすごく、蓮のパフォーマンスが見たかった。
< 43 / 54 >

この作品をシェア

pagetop