好きじゃない
突然、校内放送が流れる。

「この後、2時半から1階美術室で、麻木蓮くんの絵画パフォーマンスが行われます。今年の文化祭テーマアートを描いた圧倒的生パフォーマンス!ぜひ!ぜひ!皆さんお越しください!お待ちしてます!」

龍樹くんの明るい声だ。

みんな麻木蓮っていうだけで人が集まるんだろうな。

時計の針が2時半を差す。

と、突然どこからか音楽が聴こえてきた。
と同時にうるさいほど盛り上がる声。

1階の美術室だ。

蓮が描くんだ。

私は思わず上体を起こしていた。

みんなが見てるのに、見ないなんて勿体ない。

気付けば駆け足で階段を降りていた。

どんどん音楽が近づいてくる。
歓声も聞こえる。

ふと手すりから下を覗いた。
美術室内に収まらず、廊下まで人が溢れている。

すごい。

ゆっくりと緊張を感じながら下に降りる。

一番後ろからはほとんど蓮の姿は見えない。

どうやらベニヤ板やブロックを美術室に運んで、グラフィティーアートを描いているようだ。

アップテンポな洋楽に合わせて、何度も歓声が上がる。

すごい。

けど、私からは上の方しか見えてない。

途中、蓮がフワッと会場全体を振り返る。
廊下の私には絶対に気付いてない。

洸くんが「蓮くんかっこいい!」と叫ぶと、蓮の笑った口元が見えた。

なんか、芸能人みたいだ。
やっぱり帰ろうかな。

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