月に魔法をかけられて
「はい、ではリハに入りまーす……。
スタンバイいいですかー。よーい、スタート!」

カチーン──。

未だ理解ができず、呆然と白いニットのワンピースを着た女性を見つめている俺のことなんてお構いなしに、スタッフの掛け声とともに、歯切れのいいカチンコの音が鳴り、カメラがまわり始めた。



『待った?』

秘書が男性モデルのHAYATOの顔を窺うようにして少し頬を染めながら、初々しい笑顔で椅子に座る。

『ううん。今来たとこ』

HAYATOは自然な笑顔で首を振りながら、秘書に優しい視線を向けてセリフを言っている。

そして、カメラが徐々に秘書に近づく。

秘書は恥ずかしそうに視線を下に向け、再びHAYATOに視線を移した。

2人が視線を絡み合わせて微笑み合う。

『カット──』

スタッフの声と一緒に、カチンコの音が鳴った。




「壮真、美月ちゃんなかなかいいと思わない? 私、武田絵奈より今回の新色のイメージは美月ちゃんの方が合ってるような気がするんだよね」

瞳子がいつの間にか俺と塩野部長の間に立っていて、俺の顔を見ながらニヤッと口元をあげた。
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