月に魔法をかけられて
続いて料理が運ばれてきた。

まずはヒラメのカルパッチョ。
ヒラメが昆布締めされていて、ほんのりと昆布の香りが漂い、こりっと身が引き締まっている。またアクセントとなる柚子胡椒の風味と、彩りよく散らされたカイワレとピンクペッパーが鮮やかで、味もさることながら見た目もとても美しい。

シェフのおすすめサラダは、生ハムにルッコラ、赤や黄色のフルーツトマト、スライスした玉ねぎやラディッシュなどが合わさり、こちらも彩りが華やかで、それにかかるフルーティーな甘味のオレンジソースが絶妙だ。

「わっ、このヒラメ昆布締めされてるんだ……。柚子胡椒とすごく合う……」
「黄色のフルーツトマトって初めて食べたけど、甘くて美味しい……。サラダにオレンジソースってなんだかすっごくオシャレ……」

料理が美味しくて、口に入れるたびに笑みが零れる。

私はお腹がすいていたこともあり、シャンパンと料理の美味しさに、いつの間にか緊張感も少しずつ軽減されていた。

副社長も料理を口に入れるたびに目を丸くする私に穏やかな笑顔を向けながら、美味しそうに料理を食べている。

シャンパングラスが空いたところで、副社長はスタッフを呼び、メニューを見ながらスパークリングワインのボトルを頼んだ。

スタッフがスパークリングワインとグラスを運んでくる。

今度は先ほどとは形の違う、卵型のボウル形状のグラスに、淡いレモン色のスパークリングワインが注がれた。

副社長が香りを楽しむようにゆっくりとグラスを顔に近づけて口に入れた。

わー、ほんとこんな姿って絵になるよね。
大人っぽくて、かっこよさが半端ないなー。
瞳子さんと付き合ってたの、少し分かる気がする。


「ちょっと甘かったかな……」

副社長はひとりごとのように呟いたあと、私に視線を向けた。

「酒、甘い方が好きだよな?」

「えっ? あっ、はい……。でもどうして……?」

「聡たちと飲んでたとき、いつもジュースみたいな酒しか飲んでなかっただろ?」

「はい……。あの……、気づいてたんですか?」

「ああ。このスパークリングワインだったら飲めるだろ?」

私は自分に注がれたワイングラスを手に持ち、口に運んだ。

マスカットジュースのような爽やかでフルーティーな優しい甘さが口の中に広がる。

「わぁー、これ甘くて美味しい。すっごく好きです」

「やっぱり、ジュースみたいな酒が好きなんだな」

副社長が私の顔を見て、フフフっと笑顔を向けた。
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