月に魔法をかけられて
すると、彩矢が急に私の後ろを見ながら驚いたような顔をして、軽く会釈をした。

彩矢の視線の方向に振り向くと、背の高いイケメンの男性がこっちに向かって歩いてきていた。

「い、石川さん……。びっくりしました……、こんなところで……」

彩矢は驚いた顔をしたまま椅子から立ち上がる。

「田辺さんですよね? 野村商事の……。僕もびっくりしました。こんなところでお会いするとは……」

その男性はとても素敵な笑みを浮かべて、彩矢に挨拶をした。

「私もです。ほんとびっくりしました……」

「お友達とご一緒ですか?」

その男性が私の方に視線を移しながら、彩矢に話しかける。

「そうなんです。今日は美月……、いえ友達の誕生日で……。石川さんもご友人とご一緒ですか?」

「はい。そうなんですけど、まだ連れが来てないんです。遅れているみたいで……」

「そうなんですね」

彩矢がそう答えてその男性が口を開きかけた時、フロアスタッフが「ご一緒に奥のテーブルに移られますか?」と声をかけてきた。

男性が「あ、いや……」と言いながら返答に困っている。

それを見た彩矢が、

「もしおひとりでしたら、ご友人が来られるまで一緒にいかがですか?」

とにこやかに誘った。

そして私たちはその男性とテーブル席へと移動することになった。
< 16 / 347 >

この作品をシェア

pagetop