月に魔法をかけられて
「マンション、ここで合ってる?」

いつの間にか私の住んでいるマンションの前に到着して、副社長がハザードを出しながら車を停車する。

「はい。合ってます。昨日、ここまで送ってくださったんですよね? ほんとにすみませんでした」

「合ってたんだな。ちなみに何階?」

「あっ、3階です。301。右側の部屋です」

私の住んでいるマンションはワンフロア2戸の10階建てのマンションで、1階は会社が入っていて、2階から8階までが賃貸マンションになっている。
9階と10階はこのマンションのオーナーが住んでいるのだ。

「じゃあ、今度美月が酔っぱらったときは、ちゃんと家に連れて帰れるな」

副社長がニヤッと笑った。

「えっ? もう絶対にあんなに酔っぱらいませんから大丈夫です」

「いろいろ悪かったな。今日はゆっくり休めよ」

「はい。ありがとうございます」

副社長がガチャッと車のドアロックを外した。

その音を聞いて助手席のレバーに手をかけ、ドアを少し開けると、今までの時間が終わりを告げるように、暖かい車内に冷たい空気がスーッと入ってきた。

私は車から降りようと片足を出したあと、自分の考えを確認するように、一瞬ギュッと目を瞑った。

そして目を開けると、思い切って副社長の方に振り返った。

「あ、あの、副社長……、お味噌汁飲んで行かれますか?」

「えっ……?」

副社長が戸惑ったような瞳を向けた。
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