月に魔法をかけられて
急いでシャワーを浴びて髪の毛を乾かし、少しだけメイクをした私は、先ほど何着か掴んで持ってきた服の中からどれを着ようかと悩んでいた。

家の中で会社と同じような服装をするのもおかしいよね……。

かと言って、いつものもこもこの部屋着なんて絶対着れないし……。

ひとりだと全く気にしない服装も、このあと副社長に見られてしまうというだけで、こんなにも悩んでしまう。

私は料理がしやすいようにアイボリーのボートネックのリブニットとグレーのグランチェックのミニスカートに着替えると、足元が冷えないように黒のニーハイソックスを履いた。

お家の中だし、タイツじゃなくてニーハイソックスで大丈夫だよね?

ほんとはもこもこソックスがいいけど、そんなの副社長の前で履けないし……。

っていうか、私の服装なんて副社長は気にしないか……。

鏡の前で念のため全身をチェックしたあと、私は脱衣所のドアを開けた。

「すみません。お待たせしました。すぐにごはん作りますね」

私が部屋に戻ってくると、副社長はブランケットを膝にかけてホットカーペットの上に座り、ソファーを背もたれにしながら携帯を触っていた。

「もっとゆっくり入ってくればよかったのに」

そう言って携帯から私に視線を向けたあと、一瞬止まり、すぐに視線を携帯に戻した。

「副社長、寒くないですか?」

「あ、ああ……。俺は大丈夫だから……」

何か調べ物をしているのか、私の方を見ることなく、携帯から視線をそらさずに答える。

「じゃあ、なにかあったら言ってくださいね」

私は部屋に入ってすぐ左にある2畳のカウンターキッチンで料理を作り始めた。
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