月に魔法をかけられて
「ありがとな、美月。気を遣ってくれて。実は、少し前から好きな女性はいるんだけどさ。おそらく俺の片思いなんだよな」

照れたような顔をして口元に手を当てる。


やっぱり好きな人がいるんだ。
きっと絵奈さんのことだよね……。


ぎゅーっと両手で胸の奥を掴まれたように、ズキ──ンと冷たい痛みが走る。

わかってはいたけれど、実際に副社長の口から聞くと、ドスンと上から突き落とされたようにかなり大きなショックを受けている私がいた。

「ふ、副社長に好きって言われたら、女性は誰でも頷いてくれると思います」

ショックを受けている自分を悟られないように、私は一生懸命笑顔を向けた。

「だったらさ。美月、俺と付き合ってくれる? 俺、美月のことが好きなんだけど……」

「えっ?」

冗談とも本気とも取れる副社長の顔に、どうしていいか分からず、目を大きく見開いたまま固まってしまう。

「いい? 俺と付き合ってくれる?」

柔らかい笑顔で見つめられ、なんて答えていいのか分からない。

今さっき、副社長に惹かれている自分に気づいたばかりなのに……。


それより、絵奈さんは?
絵奈さんのことが好きじゃないの?
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