月に魔法をかけられて
「おい、コートを脱げ」

胸元にハサミの先端を突きつけられ、恐怖で身体が動かない。

「早く脱げ。脱げって言ってんだ」

男はイラついたように、今度はハサミを顔に近づけてきた。

「や、やめてください……」

なんとか声を絞り出す。

「やめてほしいなら、言うことを聞くんだな。早く脱げ!」

私は震える手でひとつずつボタンを外し、コートを脱いだ。

抵抗することもできず、ボロボロと涙が零れてくる。

「チッ……。なんだよ。カーディガンも着てるのかよ。それも早く脱げ!」

コートを脱いだ私の服装を見て、男が舌打ちをする。

「早く。聞こえないのか! それも脱げって言ってるんだ!」

ハサミの先端を私の胸や顔に動かしながら、威圧するように男が睨む。

私はさらに涙を流しながら、なんとかカーディガンも脱ぎ、震えながらドアの近くに置いてあった鞄の上に置いた。

すると男は、ブラウス姿の私を見てニヤリと不気味な笑みを浮かべると、手に持っていたハサミをゆっくりと私の胸元に近づけた。

ジョキン──。ジョキン──。

恐怖を増長させるような金属音を立てながら胸元からブラウスの布が切られていき、前がはだけ、キャミソールが現れる。

両手で胸元を隠すと、すぐに片手を取られ、今度はキャミソールにハサミを入れられた。

ブラジャーが露わになり、涙だけがボロボロと流れ続け、怖くてどうすることもできない。

「着やせするタイプか。大きくてきれいな胸してるじゃん。次はそのブラジャーを切ろうかな……」

今にも襲ってきそうな顔をして、いやらしい目で私を見る。

その時、小さいときに知らない男に襲われたあの恐怖が蘇ってきた。

ますます身体が震え出し、全く声が出なくなる。

すると、突然運転席の男のスマホが鳴りだし、「お前が出ろ」と言って後部座席の男にスマホを渡した。
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