月に魔法をかけられて
隣の男は左手で私の右腕を掴んだまま、反対の手に持っていたハサミを座席に置き、スマホを受け取った。

「はい。今捕まえました。分かってます。写真だけ取ったら逃がします。はい。大丈夫です。絶対にバレるようなことは……。はい。危険なことはしませんので安心してください」

男は電話の相手に敬語で答えている。
電話の相手がこの2人に指示をしているようだ。

「えっ? 倉庫じゃなくて部屋ですか? わかりました。そうします」

男が電話を切ると、運転席の男がすかさず声を出した。

「おい、何だって?」

「写真は倉庫じゃなくて、部屋で撮れだとよ」

「部屋?」

「ああ、ベッドの上で、淫乱な女だと分かるようにしろだって」

「ホテルってことか。おい、ここから近いところで、ワンガレージのラブホを探せ」

「ワンガレージのラブホ?」

「そうだ。普通のラブホだと受付を通らないといけないだろ。ワンガレージだとそのまま部屋に行ける。早くしろ」

「わかった」

運転席の男の指示を受け、隣の男がスマホでホテルを探し始めた。



男たちの話を聞きながら、私は身体を震わせたまま、どうにかここから逃げ出す方法を考えていた。

こんな服も切られた状態で、このままホテルに連れて行かれると何をされるか分からない。

でも、どうにか逃げ出さないと、
きっと私は……、性的な暴行をされてしまうはず……。

どうやったら逃げられるだろう……。

こういうスライド式のドアは走行中はロックがかかって開かないはずだ。

だから、ドアロックが解除されないと逃げることはできない。

ということは──。

ホテルに着いて車を降りたときに隙を見て逃げ出す──。

私は覚悟を決めた。
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