月に魔法をかけられて
すると。

「そうまー、ぼくのママをいじめるな。ぱんちだー」

私の膝の上にのっていた啓太くんが、ベッドから降りて、副社長めがけて小さなパンチを打ちに行った。

副社長は笑いながら啓太くんを抱き上げる。

「啓太、やっと捕まえたぞ。この悪ガキめー」

「そうま、やめろよぉ。おろせー」

手や足をバタバタと動かすものの、副社長にがっちりと身体を羽交い絞めにされ、身動きができなくなった。

「直人さん、今のうちに診察を……」

副社長が直人さんに声をかけ、直人さんが私の目の前に座った。


そっか……。
そう言えば、瞳子さんの旦那さんって、お医者さんだったんだ……。


直人さんは私の頬を触り、顔色を見ると、ポケットから聴診器を出した。

「瞳子、ちょっと美月ちゃんのそばにいてあげて」

瞳子さんが横から私を片手で抱きしめるように、腕をまわす。

「美月ちゃん、私がここにいるからね。大丈夫だから安心して。今から直人さんが聴診器で少し胸の音聞くね」

直人さんがパジャマの胸元から聴診器を入れる。

お医者さんであり、瞳子さんの旦那さんだと分かっていても、身体がビクッと震えた。

瞳子さんが『大丈夫』と柔らかに微笑みながら、私の背中を撫でる。

直人さんは目を閉じて聴診器の音を聞き、軽く頷くと、ゆっくりと目を開けて私の瞳を見つめた。
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