月に魔法をかけられて
玄関のドアを開けて外に出ると、部屋の温度とは全く違うキーンとした冷たい空気が、身体中を包み込んだ。

「わっ、寒い……」

思わず両手を頬にあてる。

「美月」

そう呼ばれて振り向くと、

「夜だから、俺のそばを離れないで。危ないから」

副社長は頬に当てていた私の左手を掴むと、するりと自分のコートのポケットの中にしまいこんだ。

「副……、そ、壮真……さん……」

突然のことに驚きながら副社長の顔を見る。

ポケットの中では、副社長の指が私の指の間に絡まり、ほどけないようにぎゅっと握られた。

「こうしてると寒くないだろ?」

副社長はニコッと笑みを浮かべると、繫がれた私の手を自分の方に引き寄せた。
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