月に魔法をかけられて
ドックン──。

心臓が大きく飛び跳ねる。

ポケットの中で絡まった手が急速に熱を帯びてきて、瞬く間に鼓動がドキドキドキドキと加速し始めた。

まるで傍から見たら恋人同士のような状態に、私はどうしていいのか分からず、神社までの道のりを、ただただ副社長に寄り添いながら歩いて行った。

歩いている間、意識を他に持っていこうとしているのに、どうしてもポケットの中の絡まった手にばかり意識が集中してしまい、無言になってしまう。

私は必死に何か話題になるものはないかと考えて、副社長に話しかけた。

「そ、空にいっぱい……、ほ、星が出てますね……。明日……、あっ、も、もう今日ですけど……。朝は晴れそうですね……」

なんとか話しかけたものの、緊張のあまり声が裏返り、片言の日本語のようなぎこちない会話しかできない自分に、恥ずかしすぎて落ち込んでしまう。

そんな緊張している私を笑うことなく、

「ああ。久しぶりにこんな夜中に外を歩いたよ」

副社長が空を見上げながら答えてくれた。

「わ……、私もです……。そ、それに……、私、夜に初詣に行くなんて初めてで……」

「俺は……、ここ数年は海外にいたから、初詣なんて行ってないな。初詣自体が久しぶりだな」

無言にならないよう、どうにか会話を成り立たせながら歩いていると、段々と神社に近づいてきたのか、人がとても増えてきた。
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