月に魔法をかけられて
みんなで楽しく……、いや、副社長だけはまだ眠いのか相変わらず不機嫌そうだったけれど、おせちやお雑煮を食べ終えて、食器をキッチンへと運ぶ。

「瞳子さん、これから初詣に行かれるんですよね? 支度してください。私がここを片づけちゃいますから」

「ほんと? 美月ちゃんいいかな?」

「はい。私、何もお手伝いしてないし……」

「そんなのは気にしなくていいんだけど……。でもありがとう。助かるー」

瞳子さんは申し訳なさそうに両手を合わせると、部屋へと戻って行った。

食器を洗いながらソファーに座っている副社長にチラリと視線を向けると、携帯を触りながら難しい顔をしている。

組まれた長い足や、携帯の画面をスライドさせる長い指、無意識に髪をかきあげたりする姿が、ファッション雑誌から飛び出してきたモデルのようだ。

(かっこいいな……)

キュンと胸の奥が疼き、思わず手に持っていたお皿がシンクの中にツルリと滑り落ちた。

ガチャン──。

割れなかったものの、その音の大きさに副社長が私の方へ振り向いた。

視線がぶつかり、慌てて瞳を左右に動かす。

「す、すみません……。お皿が滑っちゃいました……」

私はそれだけを告げると、すぐに視線を目の前のお皿へと戻した。
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