月に魔法をかけられて
(えっ………? ほっぺた……?)

唇ではなかったことにがっかりしたような、緊張していたのに気が抜けたような、そんな気持ちで目を開ける。

私のそんな表情に、副社長はニヤッと悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

「唇じゃなくてがっかりした?」

「そ、そんなことありません……」

心の中を見透かされているようで、瞬く間に顔が熱くなる。

「美月、そんながっかりした顔するなよ。さっき、啓太が美月にキスしただろ? だからまずは上書きな」

「えっ?」

「だってあいつ、俺の許可もなく美月にキスしたんだぜ。それも俺より先にだ。まだ5歳のくせによ。マセたガキだよな」

むっとした表情で、私の右頬を人差し指で撫でる。

「啓太くんは、子供じゃないですか……」

子供じみたような理由に、思わずクスッと笑ってしまう。

「子供でも許されることじゃないだろ。ほんとにあいつは油断も隙もありゃしねえ」

副社長はそう言うと、今度は私の左頬にキスをした。

「こっちの頬は俺が最初だけどな」

目元を柔らかくしてふわりと笑う。

そして。


「美月……」

艶っぽい瞳で名前を呼ぶと、優しく頭を引き寄せて、私の唇に自分の唇を重ねた
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