月に魔法をかけられて
そうだ。 一旦、私の泊まる部屋に連れて行く?

いやいや、それはヤバいよね。

でも警察に連れて行かれたり、週刊誌のネタになるよりかはまだマシかな?


チーンとエレベーターの到着した音が聞こえ、私は副社長と一緒にその中に乗ると、色々考えた末、覚悟を決めて自分の泊まる部屋に連れていくことにした。

エレベーターを途中で降りて、副社長を支えながら廊下を歩き、部屋のドアを開ける。

副社長はなんとか部屋まで歩いてくれながら、部屋の中に入ると、そのままベッドの上に倒れこんだ。

はぁ──。はぁ──。
はぁ──。はぁ──。

かなり息があがり、緊張していたのか、背中や首の周りにじっとりと汗をかいている。

私は呼吸を一旦落ち着かせようと右手を胸にあてた。

そして、少し落ち着いてきたところで、ショルダーバッグの中からハンカチを取り出し、首の周りの汗を拭いた。

しーんとした物音ひとつしない部屋の中で、副社長は微動だにせず眠っている。

もう……。
この人、全く起きる気配ないよね……。

私は音を立てないように、左腕にかけて持っていたスーツの上着をハンガーに掛け、ビジネスバックをテーブルの上に置いた。

そして爆睡している副社長を起こさないように気を遣いながら、慎重に靴だけを脱がせてベッドの下に揃えて置くと、そのままベッドから離れたソファーの椅子に座った。
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