月に魔法をかけられて
うどんを食べ終わって食器を片付け、食後のコーヒーを入れる。

コーヒーを持ってソファーのテーブルの上に置くと、副社長と一緒にソファーに並んで腰を下ろした。

「食後のコーヒーって落ち着きますね」

お腹もいっぱいになり、リビングには心地よい陽射しが入り、緩やかな時間が流れる。

私はマグカップの温かさを手のひらに感じながら、コーヒーを口に運んでいた。

「なあ美月……、家に……来ないか?」

コーヒーをまだ一度も口つけていない副社長が、そのカップを見つめながらひとりごとでも呟くようにぼそっと声を漏らした。

「はい? これからですか?」

「いや……、そうじゃなくて……。家で……、一緒に生活しないか?」

「えっ………?」

あやうく、手に持っていたマグカップを落としそうになる。

私はマグカップをテーブルの上に置くと、副社長に視線を向けた。

「ここにいたら啓太が美月に何をするかわからないだろ? そう考えると、俺の家が一番安全だから」

「えっ……? はい……? あの………」

何て答えていいのか分からず、言葉が続かない。

「犯人が捕まってない以上、美月をひとりで家に帰すことはしたくないんだ。このまま瞳子の家にいてもいいんだけど、啓太がな。あいつ、俺がいないところで美月を触るだろ? 俺がこんなに我慢してるのに、あいつが先に触るなんて許せないしな。そのうち、一緒に風呂にでも入るって言いかねないだろうし……」

「け、啓太くんは子供ですけど……」

「子供でも、男だろ。俺の許可なく美月に触れることは許さない。だから……、俺の家で一緒に生活しよう。それが一番安心だから。嫌とは言わさないぞ。これは決定事項だから」

「そ、壮真さん……」


確かに犯人が捕まっていない以上、ひとりで家に帰るのは正直怖い。

だけど、だからと言って、副社長の家で生活するなんて……。

そんなことできないよ……。
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