月に魔法をかけられて
副社長がチラシを探している間、無造作に置いていたショルダーバッグを邪魔にならないように端に寄せ、瞳子さんが帰りがけにくれた紙袋も一緒にその横に置く。

確かお土産と言ってたけれど……と思いながら、何をくれたのかと紙袋の中から白いビニールに包まれたものを取り出して中身を開けると、いなり寿司と納豆巻、ローストビーフと水菜のサラダが出てきた。

一番下には、可愛い箱に入ったパウンドケーキまで入れてあった。

「えっ、うそ……。そ、壮真さん……」

「んっ?」

「瞳子さんがいなり寿司とかローストビーフを入れてくれてます」

「はっ? 何? いなり寿司?」

「はい。さっき帰りがけに『お土産』と言って紙袋をもらったんですけど、何が入っているのか見てみたら、いなり寿司と納豆巻とローストビーフとサラダが入ってました。これ、夜ごはんにできそうです……」

副社長が手に持っていたデリバリーのチラシを置き、紙袋の中身を見る。

「瞳子、なかなか気が利くじゃん。あっ、味噌汁だけはインスタントがあるから、今日はこれを夕飯にする?」

「そうですね。瞳子さんに感謝しなきゃ……。こんなに気を遣ってもらって……」

私は紙袋を手に取ると、キッチンへと持って行き、いなり寿司やローストビーフをお皿に盛りつけた。

盛りつけたお皿をキッチンの横のダイニングテーブルに並べる。

お湯を沸かしてフリーズドライのお味噌汁を注ぐと、あっという間に夜ごはんが出来上がった。


『いただきます』

副社長と対面に座り、2人で一緒に手を合わせると、箸を手に取った。

「美月、正月からこんな夕飯で申し訳ないな」

ジューシーでふっくらとした甘めのいなり寿司を口に運びながら、副社長が浮かない顔を向ける。

「全然そんなことないです。このいなり寿司もすごく美味しいし、それより私……、壮真さんとこんな風に一緒に食べれる方がうれしいです……」

副社長は一瞬驚いた表情を見せたあと、クシャッとした柔らかい笑顔を浮かべた。
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