月に魔法をかけられて
「んっ? なに?」

「あの……、もうすぐ仕事が始まりますけど……、壮真さん、ごはんってどうされますか?」

「ごはん? 夜ごはんのこと? 何も考えてなかったけど……。会食のときは無理だけど、それ以外は一緒に食べて帰るか?」

逆に私に聞き返しながら、スマホでスケジュールを確認し始める。

「あの、もし大丈夫だったら……、ここで作ってもいいですか? 毎日外食っていうのもお金がかかっちゃうし、買ってきたものだとレンジでチンしてもあんまり美味しくないし……」

「それは構わないけど……。美月、作ってくれるの? 仕事終わってからだと大変じゃないか?」

心配そうに少し眉を寄せて私を見る。

「大変とかそんなことはなくて……。それより……、今日、お家に荷物を取りに行ったら、スーパーに行きたいんですけど……。今のうちに色々作って冷凍しておけば、仕事から帰ってからすぐにごはん作れるし……。スーパーに連れてってもらってもいいですか?」

「俺は美月が作ってくれる方がうれしいから、喜んでスーパーでもどこでも連れて行くよ。ほんとに大丈夫? 無理してない?」

「はい。大丈夫です」

「ということは……、これから仕事から帰ってきたら、美月の夕飯が待ってるってこどだよな? これは家に帰るのが楽しみになるな」

本当にうれしそうな表情をして口元を手で隠しながら、優しい瞳を向ける。

そんな副社長の姿に、胸の奥がきゅーんと締めつけられた。
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