月に魔法をかけられて
「噂を聞いてすぐに瞳子と塩野部長に事件のことを話してくれたんだろ? 俺が解任されるのなら事件を公表しても構わないって。あの後な、2人が親父に連絡して今回のことを全て話したらしい。その上で色々と対策を考えてくれたみたいでな。おかげでだいぶ目処が立ってきた。本当にありがとな」

柔らかい顔をして私を見つめる。

「最初はこんなにも大変なことになるなんて思っていなくてな。自分の力でなんとかできると思っていたんだ。親父とも今回の件で色々と話をしたよ。それで言われたんだ。お前はもっと危機感を持たないといけないって。油断してるとあらゆるところからすぐに足元を掬われるからなって。俺さ、外部からのことばかり考えて、まさか内部からこんなことされるなんて思ってなかったからさ。考えが甘かったんだなって反省した。俺もまだまだだよな……」

自嘲するようにフッと悲しそうな笑みを零す。

そんな副社長に私はどんな言葉をかけてあげたらいいのか分からなかった。

何と言えば副社長の気持ちが楽になるのか……。

だけど、今回のことで私が今伝えたいことがひとつだけあった。

私は改めて姿勢をただすと、副社長に笑顔を向けた。

「壮真さん、最初から全てが完璧な人なんていないです。そしたら長年会社のトップとして経営されてこられた社長の立場がなくなります。おそらく社長も過去にこんな経験をされたことがあったんじゃないかな。だから壮真さんにそう言われたんだと思います。会社と社員を守りながらトップとしてあり続けるってすごいプレッシャーとストレスだと思うから。壮真さんが自分の後継者として頑張ってらっしゃるのを見て、きっと今は安心されているのと同時に、社長自身も少し肩の荷が下りてらっしゃるんじゃないかな。私はそう思います」

「美月……」

「壮真さん、私には何もできないかもしれないけれど、話して楽になることだってあります。私も壮真さんの力になりたいです。壮真さんが辛いときには、その辛さを半分私にも分けてほしいです。頼りないかもしれないけど、もう少し私にも頼ってもらえませんか?」

「わかったよ。美月。これからそうするな」

副社長はそう言って、自分の鞄から小さな箱を取り出した。

その箱を静かに開ける。

そこには、きらきらと光り輝く大きなダイヤの指輪が入っていた。
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