月に魔法をかけられて
「美月、遅くなってごめんな。俺と結婚してくれるって言ってくれたのに、指輪を贈るのがこんなに遅くなってしまって……。この指輪、着けてくれないかな?」

(そ、壮真さん…………)

自分のことですごく大変な時だったっていうのに、いつの間にこんな指輪を用意してくれてたんだろう。

こんなことされるなんて思ってなかったから、どうしていいかわからなくて言葉が出てこない。

瞬く間に涙が溢れてきて、思わず口元を押さえた。

ニコリと笑顔を向ける副社長の顔がどんどんぼやけていく。


「俺、美月のことが好きで好きで堪らないんだ。だからもう一度言わせてくれないかな? 」

(もう一度って………)


『美月、俺と結婚してください。俺は一生美月のそばにいたいと思っています。美月にも一生俺のそばにいてほしいです。美月と一緒に家族を作っていきたいです。この指輪を受け取ってもらえませんか?』

ぽろぽろぽろぽろと止めどなく涙が溢れ出し、何も言うことができない。

「美月、もう一度返事を聞かせてくれる?」

私は涙を流しながら頷くことで精一杯だった。

「ありがとう、美月」

目を細めてうれしそうに微笑む副社長。

「美月、左手出して」

そう言われてゆっくりと左手を差し出すと、副社長は私の手を取り、箱の中から指輪を取り出した。

「美月、薬指に指輪をするのは永遠に愛を誓うためなんだって。だから俺、今から誓うな」


『俺は永遠に美月に愛を誓います』


薬指にそっとキスを落とす。

そして──。

きらきらと輝く指輪が薬指にゆっくりとはめられた。
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