月に魔法をかけられて
「それとさ、来週俺の実家に美月を連れて行きたいんだけど……。休みの日で申し訳ないんだけど、予定しておいてくれるかな?」

「ごっ、ご実家ですか……?」

「ああ。先月うちの両親が海外に行ってただろ? それでなかなか話すタイミングがなくてさ……。そしたら今回のことがあっただろ? ようやく目処が立って話をしようと思ったらさ、親父の方から早く美月を家に連れて来いって言われてさ。今回の事件の概要を瞳子が話した時に、それとなく美月の話をしたらしいんだよな。それを聞いた親父が、『お前にはもったいないくらいの気遣いのある可愛らしい女性だそうだから、逃げられないうちに早く結婚しろ』って言ってさ。だから来週、うちの実家に来てくれないかな?」

「…………………」

「まあ、嫌って言っても連れていくけどな。そのあと、美月の両親に挨拶に行かせてもらいたいから、ご両親にいつぐらいがいいか予定を聞いておいてくれる? なるべく早めが希望だけど」

「…………………」

「美月?」

「は、はい。わかりました……」

ダイヤの指輪に、副社長の実家への挨拶、そして名古屋の実家へ行くという現実に、レストランに入ってからまだ3時間も経っていないのに、私は美味しいフレンチの料理を食べたのがなんだか遠い昔のように感じていた。



レストランをあとにして、エレベーターで1階まで降りると、外はすっかり真っ暗になっていた。

「美月、少し散歩して帰らない?」

副社長に言われるがまま、手を引かれ歩いて行くと、ライトアップされた庭園が見えてきた。

「美月、イルミネーション好きだったよな?」

桜が少し咲き始めたということもあり、その庭園は夜9時を過ぎているというのに、かなりの人がイルミネーションの写真を撮ったりしながら歩いていた。

「前にさ、美月と一緒に表参道のイルミネーションを見たことがあっただろ? あの時の美月の喜びようが忘れられなくてさ。美月とこうして2人で歩いてみたかったんだ」

するりと自分の指を私の指の間に滑りこませてギュッと手を握り、ゆっくりと歩いていく。

煌めくイルミネーションの輝きに、わたしはうっとりとしながら庭園の景色を眺めていた。

「すごく綺麗……。私も壮真さんとこうして一緒にデートができてうれしいな……」

「そうだよな。俺たちこういったデートってしてなかったもんな。美月、これからはたくさんしような」

包み込んでくれるような優しい微笑みに私は幸せいっぱいな気持ちで頷いた。
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