月に魔法をかけられて
すると、珍しく副社長が彩矢ににっこりと微笑みながら、口を開いた。

「彩矢ちゃん、もし聡に少しでも気があるんだったら、彼氏としてどうかな? こいつね、実は彩矢ちゃんのことが前から気に入ってたみたいでね。この間偶然バーで会ってやっと連絡先をゲットできたものの、どうやって誘ったらいいかってずっと俺に相談してきててさ。好きならはっきり気持ちを伝えればいいのに、ほんと昔から好きな子にはヘタレでさ。

ヘタレって言ってもモテないわけじゃないんだ。このルックスだから女性からはよく声をかけられるんだけど、自分が好きな子じゃないと全く興味を示さなくてね。だから浮気することもないと思うし、大切にしてくれると思う。こいつ、本当にいいヤツだから。俺としては、彩矢ちゃんだったら聡と合うと思うんだけど、どうかな?」


ニコッと彩矢に向ける副社長の端正な顔から溢れるキラースマイル。

こんな艶っぽい瞳で笑顔向けられたら、彩矢も自分の気持ちを正直に話してしまうよね。


「はい……。私も聡さんのこと……素敵な方だと思っています……」

「ほんと? ありがとう。彩矢ちゃん。よかったな、聡!」

副社長が、してやったりと得意げな顔で聡さんを見る。

「おい、壮真。ヘタレだけは余計だ」

聡さんは照れくさそうに、グラスに残っていた白ワインを飲み干した。


先日、聡さんも副社長のこと、本当にいいヤツだって言ってた。

今日は副社長が、聡さんのことを本当にいいヤツだって言ってる。

2人ともがお互いのことを信頼しているし、友達思いなんだろうなー。

もしかして私と彩矢に少し似てるのかな。

私はクスッと笑みを零しながら、既に冷めてしまったパエリアを上機嫌で口に運んだ。
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