月に魔法をかけられて
「おい聡、彩矢ちゃんをちゃんと送っていけよ」

「ああ、当たり前だろ」

「もう俺が心配することでもないな。良かったな、聡……」

食事が終わり、店を出てタクシーを待っている間、俺は嬉しそうにニヤついている聡の顔を眺めていた。

こいつが女のことでここまでニヤついているのは珍しい。

よほど嬉しかったんだろう。

「壮真、今日はサンキュー。お前には色々と貸しがあったけど、これでチャラにしてやるよ」

「貸しってなんだよ」

「急に海外に呼び出されて、俺が毎回行ってたことだよ」

「それは仕事だろ。ビジネスとしてお前にもきちんと支払いしてるだろうが」

「そうだっけ?」

「こいつ、なんならお前のヘタレ具合を彩矢ちゃんに暴露してやってもいいだからな!」

「じょ、冗談だよ……。とにかく壮真ありがとう」

聡は真面目な顔をして俺に礼を言った。

「おう。お前が嬉しそうで俺も嬉しいよ」

「壮真、お前も早く彼女見つけろよ。あっ、美月ちゃんがいるじゃん」

余裕ができたのか、聡は偉そうに俺に助言をしてくる。

「お前何言ってんだよ。秘書になんて興味ないし、それに俺は誰とも付き合う気はないよ。女なんて面倒くさい。どうせ俺の肩書きとルックスしか興味のない女ばかりだしな。そのうち見合いでもさせられて適当な女と結婚だろうな……」

俺は自嘲するような笑みを浮かべた。

「大企業の副社長ともなると大変だな」

聡がそう呟いた時、タクシーが目の前に停まった。

「彩矢ちゃん、タクシー来たよ」

聡が彩矢ちゃんに手招きをしながら笑顔を向ける。

その笑顔に答えるように彼女が恥ずかしそうな笑顔でやってきて、そのままタクシーに乗り、2人は帰っていった。
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