月に魔法をかけられて
そんな……。
秘書っていうだけで緊張するのに、
それも副社長の秘書だなんて……。

そんな人と毎日一緒に仕事をするなんて
私には絶対に無理!!!

「部長、チーフ、私には無理です。絶対に無理です」

私は思いっきり首を横に振った。

すると、塩野部長が

「山内さん、今は話を聞いたばかりだから無理だと感じてしまうだろうけれど、私は山内さんなら大丈夫だと思っているんだ。私はこれからアポイントがあって出かけるけれど、吉川チーフともう少し話してみてもらえるかな」

そう言って私に懇願するような表情を向けたあと、会議室を出て行った。

塩野部長が出て行ったあと、瞳子さんは改めて私に優しい笑顔を向けた。

「美月ちゃん、突然の話だからびっくりしたよね」

瞳子さんの言葉に抑えていたものか溢れ出し、ぽろりと涙が零れる。

こんなことで泣いちゃいけないことは分かっているのに、私は感情を抑えることができなかった。

「わ、私……、マーケの仕事が好きなんです」

指で涙をぬぐいながら瞳子さんに訴える。

「分かってる。美月ちゃんの気持ちは分かってる」

瞳子さんは柔らかな顔をして頷く。

私は入社してから、この瞳子さんのことが大好きだった。

私の憧れでもあり、マーケティング部のみんなのお姉さん的な存在の瞳子さんは、今年で37歳だけど、全然そんな年齢には見えないし、美人でスタイルも良くて気さくなうえにバリバリに仕事もできて、まさにキャリアウーマン。

おまけに結婚していて5歳の男の子のお母さんでもある。

旦那さんはなんとドクターで、瞳子さんの弟さんの家庭教師だったらしく、猛アプローチをして結婚したそうだ。

そんな瞳子さん。
いつもマーケのみんなに気を配ってくれて、瞳子さんが一緒だと安心して仕事ができる。

仕事の段取りや資料のまとめ方、周りの状況を把握しながら仕事をすることをこの4年で随分と教えてもらった。

もう瞳子さんの下で一緒に働けないなんて……。
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