月に魔法をかけられて
『待った?』

私はHAYATOさんに窺うように顔を少し傾けながら、瞳子さんに言われた通り、なんとか笑顔を作り、椅子に座る。

『ううん。今来たとこ』

さすがHAYATOさん。
撮影に慣れているせいか、自然な笑顔で首を振りながら、私に優しい瞳を向けてセリフを言う。

そして、カメラが徐々に私に近づいてくる。

私はいたたまれず、恥ずかしさを隠すように視線を下に向けた。

ゆっくりとHAYATOさんに視線を戻すと、HAYATOさんは爽やかな笑顔で私を見つめている。


あっ、最後はお互い笑顔を向けるって言われてたんだ……。


瞳子さんの言葉を思い出した私は、ぎこちない笑顔をHAYATOさんに向けた。


『カット──』


再びカチンコが鳴り、シーンと静まり返っていたスタジオが一気に賑やかになる。

あー、恥ずかしすぎる。もう帰りたい……。
こんなのやっぱり無理だ……。

そう思いながら瞳子さんがどこにいるのかと周りを見渡すと、瞳子さんはなんと副社長と塩野部長の間に立って話をしていた。

えっ……。瞳子さん……。
瞳子さんが副社長の隣にいるってことは、
副社長に何か言われたってことだよね……。
やっぱり勝手なことしたから、副社長が怒ってるんだ……。

両手を頬にあて、顔を歪めながら大きな溜息をつく。

再び瞳子さんに視線を向けると、無表情で睨むようにこっちを見てる副社長と目が合ってしまった。
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