怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
第一章
「いやっほーい!」

 上機嫌で叫んだ要の服の袖を、あかねは強く引っ張った。空高く掲げられた両腕が一気に地面に近づく。しゃがみ込んだまま、あかねは耳打ちした。

「こんなところで叫ばないでよ! 恥ずかしいじゃない」

 きょとんとした顔つきで、要は辺りを見回す。
 そこはバスターミナルだった。複数の停留所に人が列を成して並んでいる。要達は先頭の停留所に並ぶ列の真横にいた。
 要は立ち上がると、あかねに視線を向ける。立ち上がったあかねと視線が合うと、ふとおどけて見せた。

「あら、嬉しい時に嬉しい表現しちゃダメなのかしらん」
「ダメとは言わないけど、限度を考えなさいよ。人がいるのよ。しかも今、夜なんだから」

あかねは心底あきれたようにため息をつく。

「あかねは周りを気にしすぎだよ」
「アンタが気にしなさすぎなのよ!」
「まあ、あかねが自意識過剰だってのは賛成だな」
 
 突然降って湧いた、聞き馴染みのある声にあかねは思わず声を荒げた。

「はあ!?」

 勢いよく振り返り、キッと睨みつけた先に秋葉がいた。よっと片手を軽く上げている。

「遅いわよ。何してたの?」
「時間通りだろ」
「ぴったり過ぎるわよ。五分前行動なさい」
「うっざ」
「あらやだ。夫婦健在」
「夫婦じゃない!」

 二人は同時につっこみを入れた。要はにんまりとからかいの笑みを浮かべる。もう――とあかねは一息つくと、

「そういえば、呉野先輩はまだかしら?」
「ああ、呉野ちゃんは来ないわよ」
「え? なんで?」

 首を傾げたあかねに、要はわざと眉を顰めて見せる。

「あたしだって鬼じゃないのよ。あんなビビリちゃん交霊会になんて行かせたら可哀想でしょ」
「はあ、めずらしいな。さては、あかねに散々説教くらったろ?」
「説教ってなによ。本当に怖がりな先輩を連れて行く気? とは訊いたけど」
「ガミガミうるさいからねぇ。しょうがないかな~って」

 ガミガミって何よ。と頬を膨らませたあかねを無視して、秋葉はからかうように微笑む。

「だと思った。あの要が先輩連れて来ないなんてありえないもんな」
「失礼ね。あたしをなんだと思ってんのよ」
「鬼でしょ」
「鬼だよな」

 顔を見合わせて頷き合う二人は、すまし顔で続けた。

「ああ、違うか。毒蜘蛛か」
「そうね。女郎蜘蛛よね」
「あんたたちね……」

 がっくりと項垂れた要を二人はおかしそうに笑って、列の最後尾に向って歩き出した。

 
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