怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
エピローグ
「由希、今度はいつ帰って来るの?」
あかねは、ひょこひょこと片足を引き摺りながら訊いた。制服のスカートが不規則に跳ねる。
「いつだろう? 分からないな。ごめん」
「明日帰るんだよな?」
あかねの横にいた秋葉が、ひょいとあかねの頭上から顔出して訊く。
「うん」
「寂しいなぁ。由希にまた会えないなんてさぁ」
「とか言って、自分だけまたこっそりと連絡取ったりするんでしょー。要は」
「根に持たないでよ~。あかねぇ」
「持つわよ」
「沢松は案外ねちっこいですからね」
「せ、先輩。ひどい」
「いや、当たりだろ」
からかった秋葉をあかねはグウパンチで叩こうとしたが、秋葉に腕を取られて防がれてしまった。じゃれ合う二人を笑って眺めていると、後ろから声が掛かった。
「吉原さん。お久しぶりです。二週間ぶりですね」
振り返ると喪服姿の上河内がいた。
「上河内さんもいらしたんですか」
「ええ。お線香を上げさせていただこうと思いまして」
「ジャブダルさんは?」
「後から来ます。今、駐車場に車を入れているので」
「なるほど。笹崎さんは?」
「ああ、彼女はあの後、退団してしまって」
上河内は苦笑を漏らした。
「よっぽど事件が怖かったみたい。というより、私が怖かったのかしら」
自嘲しながら、上河内は小さくため息をついた。
「私ね。昔から憑依体質で、結構なんでもかんでも憑けて来てしまうの。大体は一時的なものだから、大して大事にはならないんだけど、今回は別だったわね。二人にも迷惑をかけてしまったわ。ごめんなさい」
「いいえ、そんな」
「お気になさらずに。わたしも似たようなものですから」
「ありがとう」
上河内は丁寧に頭を下げた。顔を上げて、ふと微笑む。
「ジャブダル先生に出会って、私は少し楽になったんですよ。祓ってもらえる人がいるって心強くて。先生は尊大な態度をとったりすることもありますけど、とても素直なだけなんですよ。本人に悪気はないの。本当に、子供みたいな人で」
愛しい者を語るときのように、上河内の表情は柔らかい。
「あの、ちょっと疑問なんですけど、ジャブダルさんって視える人なんですか?」
「え?」
要の質問に上河内は少しだけ驚いて、笑った。
「ふふふっ、そうですよね。藍原さんは視えるんですものね。私は感じるくらいですけど、視える方からみれば、先生はおかしいかも知れないですね。ええ、そうです。先生は、幽霊は視えません」
「ええ!?」
これには全員が驚いた。要や由希から、ジャブダルが悪霊を祓った話を聞かされていたからだ。
「先生は視えないんです。でも、祓えるんです。すごい人でしょう」
ふふふっと、上河内は笑った。
「多分、〝気〟を使える人なんだと思います。気功というんでしょうかね。それで、霊を弾き飛ばしてるんだと私は思っています」
「本人に聞かないんですか?」
「ふふっ、本人も良く解ってないんですよ」
「え?」
「でも、祓った感覚は解るみたいです。何かが当たって吹っ飛んで行ったって言いますからね」
上河内はおかしそうに笑う。そのしぐさも上品だった。
「はあ、そんな人がいるんですねぇ」
「十人十色ですね」
柔和な表情で、上河内は言った。
あかねは、ひょこひょこと片足を引き摺りながら訊いた。制服のスカートが不規則に跳ねる。
「いつだろう? 分からないな。ごめん」
「明日帰るんだよな?」
あかねの横にいた秋葉が、ひょいとあかねの頭上から顔出して訊く。
「うん」
「寂しいなぁ。由希にまた会えないなんてさぁ」
「とか言って、自分だけまたこっそりと連絡取ったりするんでしょー。要は」
「根に持たないでよ~。あかねぇ」
「持つわよ」
「沢松は案外ねちっこいですからね」
「せ、先輩。ひどい」
「いや、当たりだろ」
からかった秋葉をあかねはグウパンチで叩こうとしたが、秋葉に腕を取られて防がれてしまった。じゃれ合う二人を笑って眺めていると、後ろから声が掛かった。
「吉原さん。お久しぶりです。二週間ぶりですね」
振り返ると喪服姿の上河内がいた。
「上河内さんもいらしたんですか」
「ええ。お線香を上げさせていただこうと思いまして」
「ジャブダルさんは?」
「後から来ます。今、駐車場に車を入れているので」
「なるほど。笹崎さんは?」
「ああ、彼女はあの後、退団してしまって」
上河内は苦笑を漏らした。
「よっぽど事件が怖かったみたい。というより、私が怖かったのかしら」
自嘲しながら、上河内は小さくため息をついた。
「私ね。昔から憑依体質で、結構なんでもかんでも憑けて来てしまうの。大体は一時的なものだから、大して大事にはならないんだけど、今回は別だったわね。二人にも迷惑をかけてしまったわ。ごめんなさい」
「いいえ、そんな」
「お気になさらずに。わたしも似たようなものですから」
「ありがとう」
上河内は丁寧に頭を下げた。顔を上げて、ふと微笑む。
「ジャブダル先生に出会って、私は少し楽になったんですよ。祓ってもらえる人がいるって心強くて。先生は尊大な態度をとったりすることもありますけど、とても素直なだけなんですよ。本人に悪気はないの。本当に、子供みたいな人で」
愛しい者を語るときのように、上河内の表情は柔らかい。
「あの、ちょっと疑問なんですけど、ジャブダルさんって視える人なんですか?」
「え?」
要の質問に上河内は少しだけ驚いて、笑った。
「ふふふっ、そうですよね。藍原さんは視えるんですものね。私は感じるくらいですけど、視える方からみれば、先生はおかしいかも知れないですね。ええ、そうです。先生は、幽霊は視えません」
「ええ!?」
これには全員が驚いた。要や由希から、ジャブダルが悪霊を祓った話を聞かされていたからだ。
「先生は視えないんです。でも、祓えるんです。すごい人でしょう」
ふふふっと、上河内は笑った。
「多分、〝気〟を使える人なんだと思います。気功というんでしょうかね。それで、霊を弾き飛ばしてるんだと私は思っています」
「本人に聞かないんですか?」
「ふふっ、本人も良く解ってないんですよ」
「え?」
「でも、祓った感覚は解るみたいです。何かが当たって吹っ飛んで行ったって言いますからね」
上河内はおかしそうに笑う。そのしぐさも上品だった。
「はあ、そんな人がいるんですねぇ」
「十人十色ですね」
柔和な表情で、上河内は言った。