怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
* 

 バスに揺られること数時間。一行は富山県富山駅の北口で下車した。
 朝の空気がひんやりと頬をなでる。昇ったばかりの日の光は僅かに強く、これから蒸し暑くなりそうな気配を感じさせた。

「よく寝た~!」

 伸びをする要の横で、秋葉も寝ぼけ眼を擦る。その後ろであかねは静かにため息をついた。

「どこでも眠れる人って良いわね」

 ぼそっと呟いた声を秋葉が拾う。

「お前、ずっと起きてたのか?」
「環境が変わると眠れないのよ。あたしはアンタ達と違って繊細だから」
「いやいや。爆睡してたのは秋葉だけだよー。あたしはちょくちょく起きてたよ」
「その度にスマホいじってたけど、何してたの?」
「ゲームか?」
「秘密」

 人差し指を突き出した要に、二人は不審な目を向ける。

「アンタって本当に秘密主義よね」
「エロ小説でも読んでたんだろ」
「やめてよ」

 冗談を言った秋葉の肩を、あかねは軽く頬を染めながら小突いた。

「それにしても、またバスに乗るんでしょ? あとどれくらい掛かるのかしら」

 あかねの声高な独り言に促されるように、要は腕時計を確認する。針は六時五分を刺していた。

「おはよう」

 一行の背に、誰かが声をかけた。振り返ると、真面目そうな顔つきの女性がいた。
 二十代中頃だろうか。Tシャツにジーンズ、上着にジップアップのパーカーというシンプルな服装は、ショートカットの黒髪と相まってボーイッシュな印象を持たせる。

「大島さん」

 要が軽く手を挙げた。

(ああ、彼女が……)

あかねと秋葉は、心の中でそう呟いて、彼女を見据えた。大島砂奈は、軽く会釈を返す。

「はじめまして。沢松あかねです」

 すかさずあかねは一歩前に出て、歩いてくる大島に握手を求めた。大島はその手をわりとしっかり目に握る。

「政治家志望ですか?」

 秋葉の呟かれた悪態に、横にいた要は思わず噴出す。あかねは聞こえなかったのか、大島と一緒に怪訝に二人を見た。

「いや、なんでもないでーす」

 クックックと笑いながら、要は思った。
(あかねならいつか本当に立候補しそう)
 大島は少し首を傾げてから、あかねに向き直る。

「大島砂奈よ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「俺、秋葉です。澤田秋葉。三日間お世話になります」
「よろしくね。ゴールデンウィークだから混んでたでしょう?」
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