怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
「いや。ゴールデンウィークの前日の深夜なんで、思ったより込んでなかったっす。まあ、バスは満員でしたけど」
「そう」

 大島は頷いて、視線を要に投げた。

「呉野さんはいないの?」
「呉野ちゃんは怖がりだから、NGでちゃいました」
「そうなの。残念ね」

 空返事のような言い方だったが、大島は眉を八の字に曲げた。口調とは反対に、本気でがっかりしているように思えて、要は訝し気な視線を送る。
 大島はそれに気づかず、手のひらを軽く合わせた。

「さあ。車に案内するわ。ついて来て」

 *

 要達が向った先に停車していたのは、ワゴン車だった。灰色に近い白色の塗装だからなのか、自家用車というよりは、職人が梯子などの荷物を乗せている社用車に見える。サイドウィンドーフィルムが張られ、中に人がいるのかは解らない。運転手は不在だ。

「乗ってちょうだい」

 大島が言いながら後部座席のドアをスライドさせると、奥の席に座っていた女と目が合った。四十代後半くらいの女性で、彼女は要と目が合うとふと不敵に笑んで、隣に座っていた二十代中頃か、後半くらいの男性と話し始めた。

 彼は、パーマをかけた黒髪を軽く触りながら朗らかに女性と話していたが、本当は迷惑そうだと、要はぽつりと思う。

 車に乗り込むと、要とあかねは彼らの前に座った。秋葉はあかねの前に座る。

「だからね。このネックレスをすれば、貴方の運気はうなぎのぼりなのよ!」
「はあ、そうですか……。でも僕、こういうのはいっぱい持ってまして……」
「じゃあ、なおのこと買わなくちゃ! 良い? 貴方の持ってる物は全部模造品よ。価値がないの。でもこれはね、本物なのよ」
「はあ……そうですか」

(断れや!)

 心の中でつっこみを入れて、要はそろりと様子を窺う。女性は商品のネックレスを猛烈アピールし、彼はただ、困ったように笑っては、はあ、そうですかを繰り返すばかりだ。

(だめだこりゃ。強制的に買わされて終わりだな)

 要は呆れながらも内心でにやりと笑う。ふと視線をあかねに移すと、彼女はムッとした表情を浮かべていた。

「お~い。あかね。食って掛かっちゃダメだからね。ほっときな」

 あかねを見ずに、そっとあかねの腕を握って制止すると、あかねは更にムッとした顔で要を睨んだ。

「あんな詐欺を放っておけって言うの?」

< 12 / 102 >

この作品をシェア

pagetop