怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
 こそっと囁いたあかねに、要もこっそりと返す。

「無用のトラブルに巻き込まれるもんじゃないのよ。それに断るも断らないも当人の問題よ。本当にイヤならババアうるせえっつって断るでしょ。彼だって良い大人なんだからさ。未成年に口出しされる方がプライドが傷つくってもんよ」
「……そうなのかなぁ?」

 と言うものの、一理ある。年下の女の子に庇われるのは確かにプライドが傷つくのかも知れない、とあかねは思って、少し弱気になった。そこにすかさず要は、「そうよ」と相槌を打った。

 あかねが渋々頷いたので、要は秋葉に話しかけようと覗くと、彼女はもう微かな寝息を立てて寝ていた。

「速すぎぃ!」

 要が小声でおちゃらけると同時に、大島が運転席へと乗り込む。その途端、中年女性は黙り込んだ。

(やっぱり詐欺なのね)

 あかねはムッとして頬を膨らます。その横で、要は後ろのやり取りを微かに嘲笑した。

「これ、良かったら道中飲んでちょうだい」

 身体を捻りながら大島は、先程トランクから取り出していた袋を差し出した。あかねが身を乗り出して受け取る。袋を覗くと中身は店舗で買ったと思われるタピオカミルクティだった。プラスチックのコップに同じく取り外しが出来るプラスチックの蓋がされ、太目の黒いストローが刺さっている。

「よく開いてましたね。店」

 要はわざと驚いた口調で言ったが、内心では猜疑心が渦を巻く。こんな早朝に開いている店などあるのだろうか。事前に買っておいた物を飲んでお腹を壊すのは勘弁だった。

「二十四時間やってる店があるの。タピオカ専門店じゃなくて、ファーストフード店なんだけど、置いてあるから……ミルクティ苦手だった?」
「いいえ、好きです。ありがとうございます」

 要はぺこりと頭を下げた。あかねから回ってきた袋の中から一つ選ぶ。まだ冷たい。袋の底にレシートが張り付いていた。袋の中から出さずに見ると、今日の日付、六時五分と記されている。
(六時五分……)
 要はレシートを引き抜いて、こっそりポケットへしまい、後ろへ袋を渡した。男性が恐縮そうに受け取る。

「あら? 澤田さんはもう寝ちゃったのね」

 秋葉に気づいてくすっと笑った大島に、あかねは苦笑を返した。

「秋葉、どこでもすぐ寝ちゃうんですよ。だから身長百八十もあるんですね、きっと」
「そうかもね」

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