怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
 ふふっと笑って、

「もしかして、一回寝ちゃうと中々起きないタイプ?」
「起こさないといつまでも寝てるかな。寝起きは良いんですけど」
「そうなのね」

 感慨深げに言って、大島はちらりと後部座席を見た。中年女性は早くもタピオカミルクティに口をつけている。

「じゃあ、出発するわね」

 大島が爽やかに意気込むと、ワゴン車は進み出した。

 *

 道中、あかねと要はそれなりにおしゃべりをしたが、他が話すことはあまりなかった。中年女性はいつの間にか眠りにつき、隣の男性はほっとした様子で窓の外を眺めている。秋葉は寝ているし、大島は運転の最中に少し要達と言葉をかわすくらいだった。

 車が走り出して二時間になるが、もう町のビルを間近に見ることはない。少し前に山の中に入ってから変わらない景色ばかりが流れている。

 しばらく走ると山間に集落が見え始めた。離れた位置に点々と家があり、その周囲は畑や田んぼに囲まれている。

「ここが耶麻口村よ」
「わ~お! ここがっ!」

 開けてあった窓から身を乗り出す要に、少し注意してからあかねもそっと窓を覗く。カーブを曲がると集落は見えなくなってしまった。

「悪いけど、村には入らないわよ」
「え? そうなんですか?」
「確か、事件のあった建物って村はずれですよね? 村に入らなくてたどり着くんですか?」
「吉原さん詳しいのね」

 大島は驚きながら、アクセルを強く踏む。勾配が少しきつくなっていた。

「確かに村はずれにあるんだけど、今はもう廃墟への道が塞がれちゃってて通れないのよ」
「へえ。なぜですか?」
「理由はよく知らないわ。村人が廃墟に行くのを怖がったからだとか、土砂崩れがあって通れなくなったとか……そんな理由だったと思うけど」
「そうなんですね」

 僅かに険のある口調で言ったのは、質問したあかねではなく要だった。どことなく嫌疑のある声音にあかねは戸惑ったが、大島は特に気にした様子はない。
 それは、中学から仲の良いあかねだからこそ気づいた要の変化だった。

 何かあったのか訊こうとも思ったが、気分屋な要のこと、なんとなくそんな気分だったというだけかも知れないと、あかねは口出ししなかった。

「……やっぱりミルクティ苦手だった? それともタピオカ嫌い?」

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