怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
 突然訊かれて、あかねはパッと顔を上げる。大島が申し訳なさそうな顔で振り返った。

「まだ沢松さんと吉原さんは飲んでないみたいだから、嫌いだったのかなって……」
「いえ! そんな! 好きですよ!」

 あかねは慌ててストローを加えた。

「良いのよ。無理しないで」

 大島は焦りながら止めたが、あかねはすぐに半分ほど飲み干した。

「あはは、私、喉渇いてたみたい。緊張して口に出来なかっただけなんですよ」

 あかねはにこりと笑いながら、またタピオカミルクティに口をつけた。

「よくやるわ。あかね、ミルクティ苦手じゃん。口の中が牛乳臭くなるから飲まないっていつも言ってるくせに」

 ぼそっと呟いた要の腕を肘でついて、あかねは鋭い目で要を睨みつける。

(ハイハイ。アンタも飲めってな)

 要は、他人から貰った物を口にするのが苦手だった。親しい者から頂いた物だったら別なのだが、会って間もない人から貰った物に口をつける気になれなかった。

(まあ、しょうがないかぁ……)

 ギンギンに睨んで来るあかねの見栄に敬意を証し、要はしぶしぶストローを銜えた。

「美味しい?」
「はい! とっても!」
「普通に美味しいです」
「そう。良かったわ」

 バックミラー越しに、にっこりと笑んだ大島は再び運転に集中した。
 それからすぐに車は道を逸れ、あまり整備が行き届いていない砂利道を走り出した。

「だ、大丈夫ですか?」

 あかねが思わず声を上げると、大島は運転に集中しながら、「大丈夫よ」と答えて、バックミラーであかねに視線を送る。

「ごめんね。これからこんな道が続くけど、それしか行く道がないのよ」
「大島さんは何度か例の廃墟に行ったことが?」
「え?」

 要は鋭い視線を送った。

「いいえ。何故?」

 大島の声音は冷静だったが、妙な間があった。要は窓を閉めると、静かに目を閉じ、背もたれにもたれて眠る体勢に入った。

「いえ、何度もこの道を通ったような言い方だったもんで。気にしないでください」
「……そう」

 前に向き直った大島と、揺れに耐えるように目を瞑ってしまった要。その気まずい雰囲気を感じ取り、あかねは僅かにきょろきょろとし、要にならって目を閉じた。

 外の景色ばかり眺めていた男は、静かになった車内で、そっと大島の背中に視線を送った。その瞳は、どこか疑心に満ちている。手付かずのタピオカミルクティが水滴を作り、コップを持っていた彼の手を濡らしていた。


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