怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
プロローグ
「あ~っ! 暇だぁあ!」

 吉原要は机に突っ伏して叫んだ。肩口まである薄茶色の髪が大げさに机の上に舞う。

「何言ってんの。クラブが暇なのは良いことじゃない」
「それは、あかねの生徒会の仕事がはかどるからでしょぉ?」
「その通りよ」

 沢松あかねは素っ気無く返して、先程の生徒会の会議で貰ってきた資料に目を通した。見事なまでのストレートヘアの黒髪を軽やかに手で払う。凛とした美しさがある少女は、僅かにため息をついた。

「怪事件捜査クラブなんて、名前もダサいし、オカルトじみた事件なんて起こるはずないんだから、もう廃部にしちゃえば?」
「ヒッド~イッ! 友達がいがないなぁ! あかねは!」
「友達がいがなかったら、こんなクラブ入らないわよ。よしみで入ってあげたんだからね。私は」
「ちえっ!」

 舌打ちを発音してみせてから、要はにやりと笑った。その意地悪な表情に、あかねはぎくりとなる。

「な、なによ?」
「ふっふ~ん。良いのぉ? そんなこと言っちゃって。みぃ~んなに言っちゃうよ? あかねは二面相なんだぞって」
「ちょっと! 私は、こんな変なクラブに入ったってことであれこれ噂されたんだから!やめなさいよ! 絶対言うんじゃないわよ!」

 慌てふためいたあかねに、にんまりとした笑顔を返して要は手を振った。

「冗談だよ~。言うわけないっしょ~!」

 あははっと楽しげに笑う要を横目に、あかねはあからさまにほっと胸を撫で下ろす。あかねはこのクラブのメンバー以外にはクールな才女で通っている。学級委員を完璧にこなしつつ、二年生にして生徒会長も勤める彼女はこの白石女子高等学園の憧れの存在だった。その憧憬の的が、怪しげなクラブに入部したということで当時様々な物議がかわされた。
 というのも、要はこの学園ではちょっとした有名人だったからだ。

「そのよしみがもう一人着たわよ」

 ドアの前に影が映ったのを見て、あかねはぶっきら棒にそう告げた。その瞬間、教室の引き戸は音をたてて開かれた。

「なんだ?」

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