怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
「……バカはアンタ。――大島さ~ん!」
「あっ、バカ!」

 あかね達に気づいた大島は、一瞬ぎくりとしたように見えたが、すぐににこやかに笑み、手を振った。猪口は迷惑そうな顔をしてあかね達を睨む。

「じゃあ、私はこれで」
「よろしくお願いします」

 挨拶を交わして猪口が要達の横を通り過ぎる。要は何気なく猪口の後を視線で追った。頭の方で、近寄ってきた大島とあかねが挨拶を交わす声が聞こえた。

 猪口が玄関にたどり着いたのを確認して、振り返ろうとすると、目の端で猪口が驚いたのが見えた。要は振り返るのをやめた。猪口は開けようとしたドアが急に開いたことに驚いたらしかった。

 開いた玄関のドアから顔を覗かせたのは、ジャブダル内場だった。途端に猪口の表情が強張る。反対に、ジャブダルは小バカにしたように鼻を鳴らした。

「お久しぶりですね。猪口さん」
「ジャブダル内場……」

 憎々しげに猪口は呟く。要の聴覚はそれを僅かに聞き取った。要は他人よりも、聴覚が良かった。要達がいる位置は、玄関から四メートルは離れているが、囁くような呟き声が僅かに聞き取れる。

(知り合い?)

 要は耳を澄ませて、注視する。
 玄関から上河内が出てきた。猪口に気づいて、朗らかに笑いかける。

「あら、お久しぶりね。猪口さん。ご商売の方どう?」
「なんですって?」

 他愛のない世間話を上河内は振ったように見えたが、猪口は怒りを露にして叫んだ。

「私の、ゼウスのネックレスをテレビで酷評しておきながら、商売はどうですって? おかげさまで売り上げ激減よ!」
「なんだ?」

 秋葉が呟いて振り返った。あかねは不審そうに首だけで振り返る。大島は、どこか緊張感のある顔で声を荒げた猪口を見据えた。

「あら、先生は本当のことを言ったまでですよ。あんなインチキな物売ってるだなんて、霊能者の風上にも置けません」
「なんですって!」

 猪口が逆上し、上河内に掴みかかろうとした瞬間、

「どうしたんですか?」

 鈴の鳴るような、どこか清らかな声音がした。
 半開きだった玄関のドアから、少女が顔を覗かせる。ボブヘアの栗色の髪が風になびいた。



「由希!」

 要と秋葉とあかねは同時に叫び、少女――こと、藍原由希の許へ駆け出す。

「要ちゃん! あかねちゃん! 秋葉ちゃん! 久しぶり」
「久しぶり~! 由希~!」

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