怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
 猪口はテレビで自身のグッツを批判されたらしいが、それだけが理由だろうかと要は注意深く観察したが、険悪な雰囲気のわりには、会話はまったくなされず、要は内心でがっかりした。

 昼食後は夜の交霊会までは自由時間となり、四人は部屋で過ごした。久しぶりに仲間が揃って、話が尽きない。結局四人はどこにも出かけないうちに、交霊会の時刻になった。儀式はなるべく清めた状態で行いたいらしく、夕食は儀式後とのことだった。

 要達が一階へ下りると、リビングの暖炉の前に田中が緊張した面持ちで立っていた。

「田中さん」

 要が声をかけると、田中はぎこちなく微笑んだ。

「リビングでやるんですね」
「ええ」

 田中の返事を聞くと、要は改めてリビングを見回す。ローテーブルを囲んだコの字型のソファの中央にはジャブダル内場がどっしりと座っている。そして、そのソファを囲むように三台の定点カメラが置かれていた。
 
上河内と笹崎は用意されていたキャンドルスタンドに火を点けたり、テーブルの上に敷いた黒い布に何かの模様を描いている。おそらく魔法円かタリズマンだろう。テーブルの下には小皿に入った香油が置かれている。ほのかに香るエキゾチックな匂いに混じって微かに灯油のような油くささを感じる。

「なんか臭くない?」

 あかねが要の耳元で囁いた。

「そう? まあ、香りはきついけど、臭いってほどじゃないと思うよ。ねえ、秋葉?」
「え? 何が?」
「なんとも思わないそうでーす」
「秋葉に訊いたってそう言うわよ。ねえ、由希は臭わない? 灯油みたいな感じしない?」
「わたしも特には」
「そう。じゃあ、気のせいかしら?」
「あかねは神経質だから~」
「アンタだってよっぽどよ」

 あかねが睨むと、

「こんなので大丈夫かしら?」

大島が、キッチンから水の入った五つのコップを運んで来た。

「ああ。ありがとう」

 ジャブダルが偉そうに答えて、大島は笹崎と上河内にコップを渡した。

「そうだ。吉原さん達、スマホや携帯電話出してもらえる?」
「え? なんでですか?」

 要が怪訝に尋ねると、大島はジャブダルをちらりと促すように見た。ジャブダルは、前のめりになって、膝に手をかける。

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