怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
「倒れた。大丈夫、例のあれだと思うから」
「なんだ、良かった」

 あかねが呟き、秋葉が安堵の息をついたときだ。パッと、部屋の電気がついた。眩しくて目を細めながらも、誰もがほっと胸を撫で下ろす。そして、ある程度の覚悟をして、皆が大島に視線を向けた。暖炉の中に上半身がある。

ぎょっとして、あかねと上河内が息を呑むような短い悲鳴を上げた。笹崎は恐々とした絶叫を叫び、顔を背ける。ジャブダルが野太い声で驚き、顔を伏せたあかねを無意識に秋葉が抱く。混乱に混じって、

「なんで、なんで……」

 猪口の狼狽した声音が聞こえて、要は振り返った。彼女は暖炉から少し離れたところで、空のバケツを持って震えながら座り込んでいた。

 要は感慨深げに猪口を見据えながら、大島を振り返る。そっと近寄ると、ちょっと! と、笹崎が止める声がしたが、要はそのまま進んで行き、暖炉の中に入り込むと、大島の胸や口元に耳をやって、息を確認する。

「ダメだ。死んでる」

 落胆したため息が、ちらほらと上がった。

「……臭いな」

 呟いて鼻を摘むと、要は大島をしげしげと眺めた。
 焼け爛れた顔は見る影もなく、髪もあまり残っていない。右側が特にひどい。右目はひん剥かれたように見開き、右頬は引き攣れ、皮膚と一体化した唇からは歯がむき出しになっている。一番ひどいのは右腹部から胸にかけてで、皮はべろりと剥がれ落ち、ピンク色の斑に混じって黒い消し炭のような痕がある。

(なぁんか、やけに右側だなぁ……)

「お前、よく見れるな」

 秋葉が軽蔑とも尊敬とも、呆れとも取れないような口調で言った。

「まあね」

 要は余裕綽々といった感じで返したが、内実吐きそうだった。むわっと込み上げて来る吐き気を抑えながら、要は大島の遺体を刺すように観察する。

(おかしいな。なんでこの人半そでなんだ?)

 梅雨の時期とは言え山の中は肌寒い。皆が長袖姿でいる中、大島だけが半そでだった。しかも、いつの間にか右腕に包帯まで巻いている。

(この人、さっきまで長袖のパーカー着てたよな)

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