怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
 要は記憶を辿る。昼食を摂ったときは長袖だった。交霊会をやると集まり、水を運んできたときには、もう一枚羽織っていた。ジップアップのパーカーだった。だが今は半そでだ。運転するときに見えていた手首には包帯はなかった。だが、今は手首にまで包帯が巻かれている。要は首を捻った。

(なんで包帯なんか……。怪我でもした? でも、包帯をするくらいだから、怪我してたんなら右腕の動きに違和感があるはずだけど、水を運んで来たときには痛そうなそぶりすらなかった。確か、一番最初に燃えてたのも右腕だったはず……)

要は腕を凝視する。グズグズに焼け爛れた皮膚と一体化した包帯をまくって、傷跡がないか、シップが張られていないか、確かめてみたいがさすがに抵抗があった。十秒程内心で葛藤して、要は好奇心に負けた。

 意を決して手を伸ばす。周りで狼狽する声が上がるが、要は無視して腕を取った。まだ熱いが持てないほどではない。焼けた包帯をそっと摘むと、まくった。手首の皮が一緒にぺろんとめくれ上がったが、それ以外は布だけがまくられただけで済んだ。包帯がするすると解かれた。思ったよりもずっと緩く巻かれていた。

 現れた右腕は、顔や胸に比べると遥かに軽症だった。
 最初に火がついたのなら、一番ひどいのはその箇所のはずだ。だが、大島の右腕は普通の、例えば煮え湯を誤って掛けてしまったときや、料理中の油はねによってする火傷とさほど変わりはない。というよりも、それらの方が場合によっては重症だ。大島の負った右腕の火傷はかなり軽い。
 よく見るとぬめっとする光沢がある。触ってみると、それはジェルのようだった。

(これって……)

 要は、ふと顔を上げる。暖炉から出ると、とりあえずしゃがんでテーブルやソファを眺めた。要の様子に皆が怪訝に首を傾げる中、

「お待たせしました。電気つきましたよね?」

 慌てた様子で田中が戻ってきた。

「大島さんは?」

 あかねや上河内がかぶりを振ると、田中は、そんなと呟いて落胆した。

「では、警察に連絡します」

 残念そうに言って、カウンターに置いてあった電話まで向おうと踵を返した。そのとき、

「ちょっと待ってよ。警察に電話するの?」

 猪口が強張った表情で声を上げた。

「しますよ。当たり前じゃないですか」

 一瞬きょとんとして、田中が苦笑する。

「なんて言うつもり?」
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