怪事件捜査クラブ~十六人谷の伝説~
 当初は道を知る田中が運転する手はずだったが、田中が急に体調を崩した。本人いわくストレスがかかるとすぐにお腹を壊してトイレに立て篭もるはめになるらしい。現に、見送りに出る前にもトイレに篭城していた。なので、見かねたジャブダルが運転手役を買って出た。ジャブダルは既に運転席へ乗り込んでいる。

「すみません。上河内さん。本当に、不甲斐ないです」
「いいえ。こればっかりはしょうがありませんよ。それに、私もここにいると、気分が悪くなりますの」

 上河内は顔を曇らせて、ペンションを見上げた。

「ここに着いた頃から、妙にイライラする自分がいたのは解っていましたけど、交霊会後は、なんだか……怒りに任せて〝誰か〟を殺しそうで……」

 ぽつりと零した上河内の表情が妙に暗く、虚ろな感じがして、吐き出された不謹慎な言葉よりもあかね達には恐ろしく感じられた。〝誰か〟のワードには、特定の人物が入るような気がしてならない。

「それに、ここには霊的なものが二人います。誰かは分からないけれど、そう感じる。黒い気配のモノは大きい。とても、パワーがある感じですけれど、もうひとつはかなり弱々しく、とても臆病」

 周囲の不安げな視線に気がついて、上河内は伏せていた顔をパッと上げた。

「すみません。戯言につき合わせてしまいましたね。さあ、行きましょう」

 慌てて助手席に乗り込んだ上河内に続いて、あかね達もワゴン車に乗り込む。

「いってらっしゃい!」

 田中が手を振ると、ワゴンは村を目指して走り始めた。

「ヤバイ」

 田中は急いで玄関のドアを開けた。小走りでリビングを横切る。その際、自然と視線が暖炉へ向う。そこには毛布に覆われた大島の死体が転がっている。複雑な表情で視線を逸らすと、ソファに座ってビデオカメラをいじっている要と由希と目が合った。

「まぁた、トイレですかぁ~?」
「ごめん、急いでるから!」
「漏らさないようにがんばって~」
「要ちゃん!」
「女の子がそんなこと言っちゃダメだよ」

 情けない声を上げながら、田中はいそいそとトイレに入った。
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